
飲食店の多店舗展開では、よく「3店舗の壁」「5店舗の壁」「10店舗の壁」という言葉を耳にします。
実際、順調に店舗数を増やしてきた会社でも、ある段階から思うように出店が進まなくなったり、店舗数は増えているのに利益が伸びなかったり、店長や社員の育成が追いつかなくなったりすることがあります。
では、なぜ、このような問題が起こるのでしょうか?
もちろん、その原因は会社によってさまざまですが、私は、その大きな要因の一つが「多店舗化に必要な経営基盤が整っていないこと」にあると考えています。1店舗のときは、経営者自身が現場に立ち、スタッフを指導し、問題があればその場で対応することができます。2店舗、3店舗になっても、経営者が各店舗を回りながら、何とか会社を動かすことはできるでしょう。
ところが、5店舗、10店舗と増えていけば、そうはいきません。
経営者がすべての店舗を見て回り、店長や社員を直接指導し、日々発生する問題に対応し続けることには、当然ながら限界があります。だからこそ、店舗数が増える前に、経営者が直接指示を出さなくても、店長や社員がそれぞれの役割を理解し、自ら仕事を進められる会社にしておくことが必要なのです。
そして、そのために必要なのが、経営方針や組織、教育、店舗運営、数値管理などの「経営基盤」です。
ところが、多くの中小飲食企業では、目の前の営業や出店を優先するあまり、こうした経営基盤づくりが後回しになりがちです。その結果、店舗数が増えるにつれて、これまで経営者自身の力で補ってきた問題が、一気に表面化してくるのです。
経営基盤が整っていないと、店舗数が増えるほど問題が大きくなる!
例えば、次のような問題に心当たりはありませんか?

こうした問題は、決して別々のものではありません。
例えば、店長の仕事や役割が明確になっていない会社では、店長によって仕事の進め方が違います。ある店長はアルバイト教育に熱心に取り組む一方で、別の店長は日々の営業を回すだけで精いっぱい。売上・利益の管理についても、店長によって取り組み方がまったく異なる。
これでは、店舗ごとの業績や営業レベルに差が生まれるのも当然ではないでしょうか?
また、アルバイト教育についても同じです。
会社として教育の基準や方法を決めていなければ、教える人によって教え方も内容も違ってきます。その結果、スタッフの成長スピードに差が生まれ、接客やサービスの質も安定しなくなります。
そして、もう一つ大きな問題が、会社で決めたことが実行されないことです。
経営者が「もっと売上を伸ばしてほしい」「アルバイト教育に力を入れてほしい」「店舗改善を進めてほしい」と伝えても、店長が具体的に何をすればよいのか分かっていなければ、なかなか行動にはつながりません。その結果、売上・利益が伸びない、人が育たない、人が辞めるという問題が繰り返されることになります。
人が辞めれば、残ったスタッフの負担が増え、新人教育にも時間を取られます。そうなると、ますます店舗改善に取り組む余裕がなくなり、営業の質も低下していくでしょう。
さらに、店長や社員が育たなければ、次の出店を任せられる人材も確保できません。つまり、経営基盤が整っていないことによって、さまざまな問題が連鎖し、結果として会社の成長が止まってしまうのです。
私は、こうした状態こそが、多店舗展開における「3店舗・5店舗・10店舗の壁」を生み出す大きな要因の一つだと考えています。
では、多店舗化に必要な経営基盤とは、具体的に何を整えることなのか?
「多店舗化を進めるには、経営基盤を整えることが重要です!」
こう言われれば、多くの経営者の方は「そんなことは分かっている」と思われるでしょう。しかし、では具体的に何を整えればよいのかと聞かれると、意外と答えに困る方も多いのではないでしょうか?
私は、2店舗、3店舗からさらに多店舗化を進めていくためには、特に次の8つの取り組みが重要だと考えています。もちろん、すべての会社が同じ順番で取り組む必要はありません。現在の店舗数や経営状態、人材の育成状況によって、優先すべきことは異なります。大切なのは、自社に何が足りないのかを把握し、必要な仕組みを一つひとつ整え、実際の仕事の中で使えるようにしていくことです。

① 経営方針・理念の明確化と浸透
まず、会社としてどんな店づくりを目指すのか、どんな会社にしていきたいのか、そして、何を大切にして経営していくのかを明確にすることです。
そのために、経営方針書の作成や経営理念の明確化、店舗コンセプトの整理を進めます。
店舗数が増えるほど、経営者の考えを直接伝える機会は少なくなります。だからこそ、店長や社員が共通の価値観に基づいて判断し、行動できる状態をつくることが必要です。
ただし、理念をつくり、唱和するだけでは十分ではありません。日々の営業の中で、理念に沿った判断や行動ができるようになることが重要なのです。
②組織・役割の明確化
店舗数が増えるほど、経営者、店長、社員、それぞれの仕事と役割を明確にする必要があります。
特に重要なのが、店長の仕事を具体化することです。
例えば「スタッフ教育をしなさい」と指示するだけでは、何を、どのように、どのくらいの頻度で実行すればよいのか分かりません。だからこそ、仕事を具体的な行動レベルまで落とし込み、店長が迷わず実行できるようにすることが必要です。
また、マネージャーや本部スタッフの役割、権限、会議の仕組みなども整え、経営者一人に仕事が集中しない組織づくりを進めます。
③ 人事評価制度の整備
人事評価制度は、単に給与や賞与を決めるためのものではありません。
私は、店長や社員の成長を促すことも、人事評価制度の重要な役割だと考えています。店長や社員が何をできるようになれば成長したといえるのか。その基準を明確にすることで、本人も自分の課題を理解でき、上司も何を指導すればよいのかが分かります。
さらに、定期的な面談を通じて成長を確認し、次の目標を共有する。単に人を評価する制度ではなく、人を育てるための制度にすることが重要なのです。
④ 店長・社員の育成の仕組みづくり
多店舗展開を進めるためには、新店舗を任せられる店長や、会社の中心となる社員を計画的に育てる必要があります。そのために重要なのが、店長・社員の育成を、個々の上司の経験や指導力に頼るのではなく、会社としての「仕組み」にすることです。
例えば、店長に必要な知識や能力、具体的な仕事内容を明確にし、何を、どの順番で、どのように教えるのかという教育体系や育成基準を整えることです。こうした仕組みがなければ、教える上司によって教育内容や指導方法が異なり、店長・社員の成長スピードにも大きな差が生まれてしまいます。
だからこそ、教育・育成の属人化を防ぎ、誰が指導しても一定の水準まで人材を育てられる仕組みをつくることが重要なのです。
そして、単に知識を教えるだけでなく、学んだことを日々の仕事で実行できるようにすること。これによって、店長・社員が着実に成長し、次の出店を任せられる人材を計画的に育てられる会社にしていくことが必要なのです。
⑤ アルバイト教育の仕組みづくり
アルバイト教育を店長や社員個人の経験や指導力だけに任せていては、教える内容やスタッフの成長スピードに差が生まれてしまいます。そこで、教育マニュアルやOJTの仕組みを整え、何を、どの順番で、どのように教えるのかを明確にします。
ただし、マニュアルをつくるだけでは十分ではありません。
特に重要なのが、仕事ごとに「どのような状態になれば、できるようになったといえるのか」という基準を設けることです。教える側が指導しやすくなるだけでなく、アルバイト自身が成長を実感できる仕組みをつくることが重要なのです。
⑥ 店舗運営基準の整備
多店舗展開を進めるためには、店長やスタッフが変わっても、どの店舗でも一定の営業品質を維持・向上できるよう、会社として店舗運営の基準を整えることが重要です。
例えば、商品品質や調理方法、接客・サービス、衛生管理、店舗オペレーションなどについて、会社としての基準を明確にし、店長やスタッフの経験や能力だけに頼らない店舗運営の仕組みをつくることです。
また、私が特に重要だと考えているのが、お客様の不満足を生まないための「当たり前行動」の徹底です。お客様の状況を見て、必要なことに気づき、指示されなくても行動できるように、具体的な行動基準を整え、日々の営業の中で実践できるようにすることが必要です。そして、こうした基本的な営業品質を維持する仕組みを整えたうえで、各店舗のコンセプトに基づいた接客・サービスや体験価値を高めていく。
つまり、店舗運営基準の整備とは、単にマニュアルをつくることではなく、どの店舗でもお客様に満足していただける営業を実現し、さらに店の価値を高めていくための仕組みづくりなのです。
⑦ 数値・利益管理の仕組みづくり
多店舗展開を進めるためには、店舗数を増やすだけでなく、既存店の売上・利益を高めていくことが欠かせません。そのために、日次・週次の数値管理、月次損益、売上予測、人件費管理などを仕組み化します。ただし、数値管理とは、難しい計算ができるようになることではありません。
私は以前から「数値管理に電卓はいらない!」とお伝えしています。
計算はExcelなどに任せ、店長には数字の意味や問題の発見方法、改善行動を教えることが必要です。数字を集計するだけでなく、売上・利益アップに向けた具体的な行動につなげることが重要なのです。
⑧ 実行・確認・改善の仕組みづくり
そして、ここまでの7つの取り組みを成果につなげるために、特に重要なのが「実行・確認・改善」の仕組みです。どれだけ立派な経営方針書や教育制度をつくっても、実行されなければ会社は何も変わりません。
だからこそ、会議などで決めたことを「誰が、何を、いつまでに実行するのか」まで具体化することが必要です。さらに、次の会議で実行状況を確認し、できていなければ、その理由を明らかにして指導や修正を行う。
この繰り返しによって、店長や社員の行動量を増やし、決めたことが実行される会社へと変えていくことが重要なのです。
経営基盤づくりの目的は、仕組みをつくることではなく、人の行動を変えること!

ここまで、多店舗化に必要な8つの経営基盤について紹介してきました。しかし、ここで一つ、ぜひ理解していただきたいことがあります。
それは、経営基盤を整えること自体が目的ではないということです。
経営方針書を作成することも、組織図や人事評価制度をつくることも、教育マニュアルや数値管理表を整備することも、すべては会社を成長させるための手段です。
例えば、
・店長の仕事を具体化し、必要な知識や仕事の進め方を教えることで、店長がアルバイト教育や店舗改善に積極的に取り組むようになる。
・アルバイト教育の基準を整えることで、スタッフが仕事を早く覚え、自分の成長を実感できるようになる。
・店舗運営基準を明確にすることで、お客様に対する当たり前の行動が増え、接客やサービスの質が高まる。
・数値管理や会議の仕組みを整えることで、売上・利益アップに向けた具体的な行動が継続的に実行されるようになる。
このように、仕組みをつくることによって、店長や社員、アルバイトの行動が変わり、その結果として、お客様満足度が高まり、売上・利益の向上につながっていく。
これが、経営基盤づくりの本来の目的なのです。
そして、もう一つ重要なことがあります。それは、こうした仕組みを整えることによって、経営者自身の仕事も変わるということです。
店長や社員がそれぞれの役割を果たし、会社で決めたことが実行されるようになれば、経営者がすべての店舗を見て回り、細かな指示を出し続ける必要も少なくなります。その分、経営者は新たな出店計画や商品開発、組織づくり、人材育成など、会社の将来に向けた仕事に時間を使えるようになります。
つまり、経営基盤づくりとは、単に仕事を標準化したり、会社の管理体制を整えたりすることではありません。人が育ち、それぞれが自分の役割を果たし、会社全体が成長できる状態をつくることなのです。
多店舗化を加速させたいなら、今のうちに経営基盤を整えよう!
こうした経営基盤は、店舗数が増えてから整えればよいというものではありません。むしろ、店舗数が増えて問題が大きくなってからでは、仕組みづくりを進めること自体が難しくなります。
なぜなら、店舗数が増えるほど、日々の営業や人材育成、問題対応に追われ、経営者自身が会社の仕組みづくりに取り組む時間を確保しにくくなるからです。
だからこそ、私は、2店舗、3店舗の段階から、次の多店舗化を見据えた経営基盤づくりに取り組むことが重要だと考えています。店長の仕事や役割を具体化する。経営方針を明確にする。アルバイト教育や店舗運営の基準を整える。数値管理や会議の仕組みをつくる。
そして、これらを実際に運用しながら、店長や社員を育て、既存店の売上・利益を高めていく。そうすることで、新たな店舗を任せられる人材が育ち、出店するたびに教育や運営の仕組みをゼロから考える必要も少なくなります。また、既存店の営業品質や収益力が高まれば、次の出店に向けた経営基盤も、より強固なものになるでしょう。
私は、多店舗化を成功させるために大切なのは、単に店舗数を増やすことではなく、店舗数が増えても、人が育ち、店が売れ、会社が成長し続ける状態をつくることだと考えています。そのためには、目先の出店だけに力を注ぐのではなく、今のうちから会社の経営基盤を整えておくことが必要なのです。
そして、もう一つ。
経営基盤づくりは、何年もかけて少しずつ進めなければならないものとは限りません。会社の現状を整理し、優先順位を決め、必要な仕組みづくりと店長・社員の育成、既存店の売上・利益アップを同時に進めていくことで、1年間でも会社を大きく前進させることは十分に目指せます。
これから5店舗、10店舗、さらにその先を目指したいと考えている経営者の皆さん。
今の会社に足りない経営基盤は何か。そして、それを整えるために、今年、何から取り組むべきなのか?一度、自社の経営状態を見直してみてはいかがでしょうか?

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