
私の趣味の一つがスポーツ観戦ということもあり、普段からYouTubeやネット記事で様々な競技の情報をチェックしています。ただ、単純に試合結果を追うよりも、「どんな組織づくりをしているのか」「どういう風に人を育成しているのか」といった裏側の話題に、つい目が向いてしまいます。そんな中で、この年始に気になったエピソードから、「令和」における人財育成について考えてみました。
令和の指導の方が、選手間の「差」がつきやすい厳しい時代である!
昨年、あるYouTube動画で語られていた、高校野球における「昭和の指導」と「令和の指導」の違いが非常に興味深いものでした。
「昭和の指導」は、特に強豪校において「100mダッシュ1000本やっとけ!」というような、スパルタかつ強制的なメニューが当たり前でした。しかし当時は、生徒側もそれに疑問を持たず、全員が必死にその1000本を走り抜いていました。逆を言えば、全員が同じ過酷なトレーニングを強制されるため、能力的な「差」がそれほど開きにくかったとも言えます。
一方、「令和の指導」では、こうした強制的なメニューを課すことが難しくなっています。「なぜこの練習が必要なのか」という目的を生徒が納得しなければ、主体的に取り組んでもらえないなど、指導の難易度が上がっています。
その結果、多くの部分を生徒の「自主性」に委ねることになります。すると、「100mを1000本走る」意識の高い生徒もいれば、反対に「10本しか走らない」生徒も出てくる。この取り組み方の違いが、生徒間での大きな「差」を生み出し、意欲の低い生徒にとってはかえって成長しづらい環境になっているというのです。
つまり、昭和の時代は「厳しいトレーニングを強制する」ことで、ある種の「底上げ」が担保されていました。しかし令和の今は、世間の風潮もあり強制が困難になったことで、成長が「個人の裁量」に委ねられる部分が増えています。
見方を変えれば、今の令和の時代の方が、生徒にとってはより”自己責任”が問われる、厳しい時代になったのではないか?という見解でした。
確かに今は、何かと強く指摘したり厳しく接したりすると、「パワハラ」だと騒がれる時代です。
しかし、私は昭和の指導をすべて肯定するわけではありませんが、経験が未熟な段階の人には、ある程度の「強制力」が必要だと考えます。そうでなければ、本当の意味での「成長」を勝ち取ることは困難ではないでしょうか。 なぜなら、未熟なうちはどうしても「楽な方」へ流されやすく、その厳しい訓練がなぜ必要なのかという本質を、まだ理解できていないことが多いからです。
これを皆さんの会社に置き換えてみてください。
スタッフの成長を完全に「本人任せ」にしたとしたら、一体どれだけの人が自らストイックに努力し続けるでしょうか。 それでは、会社としての成長は絶対に望めません。
特に、会社がアーリーステージ(創業期)にある場合や規模が小さい時は、最初から超優秀なスタッフが応募してくるわけではありません。 だからこそ、一定のレベルまでは「強制力」を持って引き上げることが必要であり、その土台があって初めて、相手の自主性に任せることが活きてくるのだと思うのです。もちろん、強制すればスタッフからの反発もあるでしょう。しかし、そこで彼らの成長を真剣に願うからこそ、こちら側が「嫌われる勇気」を持ってグッと我慢し、向き合い続ける姿勢が必要なのです。
「自主性」は、明確な目標を持つからこそ生まれる!
「スタッフがもっと自主的・主体的に仕事に取り組んでくれればいいのに……」 経営者の皆さんは、日々そう感じていらっしゃることでしょう。
この「自主性」について、前千葉ロッテマリーンズの吉井監督が非常に核心を突くことを仰っていました。吉井さんは、日本ハムやソフトバンクのコーチ時代、ダルビッシュ投手、大谷選手、佐々木投手といった、今やメジャーで活躍する超一流選手たちを直接指導されていました。
吉井さん曰く、3人に共通するのは「明確な目標」を自ら持っていたことだそうです。ゴールが明確だからこそ、そこから常に逆算し、自分に今何が必要かを考え、自律して行動できていたといいます。他の選手が「指示がないと動けない」ことが多い中で、この3人は最初から主体性が全く違い、結果として成長のスピードも桁外れだったそうです。
やはり、人が「自主的」「主体的」になるためには、本人が「明確な目標」を持っていることが不可欠です。逆に言えば、会社側が各スタッフに対して「いかに明確な目標を持たせるか」が、育成における最大の課題になると言えるでしょう。
人を育てる秘訣は、「理念と覚悟」を持つこと!
先日、箱根駅伝で見事な走りを見せた青山学院大学の原晋監督が、あるインタビューで人財育成の秘訣を問われた際の内容も非常に示唆に富んでいました。
青学がこれほどまでの結果を出し続けられる背景には、素晴らしい「理念」が存在します。
「箱根駅伝を通じて、社会に役立つ人材を育成する」
これが駅伝部の明確な理念です。もちろん勝負に勝つことも重要ですが、目的はあくまで「社会に役立つ人財」になること。その理念があるからこそ、寮生活での規律や練習のルール、目標管理を徹底し、「駅伝」というツールを通じて人間教育を行っているのです。この規律を守り、自ら目標達成のために試行錯誤する経験は、必ず社会に出たときに役に立ちます。
こうした方針があるからこそ、スカウトの際も単にタイムが良い選手を選ぶのではなく、「勉強も真面目に取り組む」「素直である」「自分で考えて試行錯誤できる」といった資質を持つ学生を厳選しているそうです。
そして、育成においてもう一つ大切なのが「覚悟」です。
学生が自分の目標達成のために必死に取り組んでいる以上、指導者もそれ相応の覚悟を持って向き合わなければなりません。原監督は、普段は選手とベタベタしたコミュニケーションは取らないそうですが、練習中の一挙手一投足は、誰よりも細かく観察することを心掛けているといいます。よく見ているからこそ、選手の微細な調子の良し悪しが分かる。これは長年の指導経験と、真剣な観察の賜物でしょう。
また、今の時代は「パワハラ」を恐れて指導が難しくなっていると言われますが、原監督はそこを過度に気にしすぎません。それよりも「学生の成長を真剣に考えている」という軸があるからこそ、真正面から向き合い、厳しい言葉が必要な時は毅然と伝える。その根底には、誰よりも学生を見ているという自負があるからです。 指導者がそれだけの「覚悟」を持って接しているからこそ、学生も安心して、かつ真剣に競技に打ち込めるのだと思います。
これは、私たちの飲食業界でも全く同じことが言えるのではないでしょうか。 志を同じくする仲間であれば、こちらが逃げずに真正面から真剣に向き合うことで、相手もこちらの想いをしっかりと受け止めてくれるはずです。
「自主性」が生まれやすい環境を整備しよう!
皆さんの会社においても、スタッフの「自主性」や「主体性」を引き出すことに苦心されているかと思います。 しかし、自主性は相手の成長段階に応じて段階的に任せるべきものです。経験やスキルが不足している段階では、ある程度の「強制力」を持って教育し、課題を与えなければ、独りよがりの学習に終始してしまい、会社が望むような成長は実現しません。
ただ、それと同時に、個人に「明確な目標」を立てさせること、そして会社側は、スタッフが目標を描きやすい「キャリアプラン」を提示し、成長を支援する教育体制やフィードバックの仕組みを整える必要があります。
さらに、会社の理念や価値観(成長したい、人生を豊かにしたい、飲食の仕事を楽しみたい等)に共感する人を採用できていれば、少々の負荷があっても、彼らはそれを「自分ごと」として乗り越えてくれるでしょう。
そしてそのベースとして、経営者・幹部には、スタッフの「人生」や「成長」を背負うほどの「覚悟」が求められます。こちらが覚悟を持って接していれば、たとえ厳しい言葉をかけたとしても、それは必ず相手の心に届きます。スタッフは理解し、その言葉を糧に大きく成長してくれる。私はそう確信しています。


