
「体験価値」を高められる「心的資本経営」(人を活かす飲食店経営)のすすめ
新年あけましておめでとうございます。
みなさん、「心的資本経営」という言葉をご存じでしょうか?
これは、昨年の9月に、あの「丸亀製麺」で有名な株式会社トリドールホールディングスが、今後の経営戦略として取り入れたものです。
これまで、「人的資本経営」という考え方は広く知られてきましたが、「心的資本経営」は、それを一段階引き上げた考え方といえるでしょう。
少し整理をすると、「人的資本経営」とは人を価値を生み出す「資本」と捉え、社員の持つスキルを最大限に引き出すことで企業の価値(業績や株価)を高めることが目的です。対して「心的資本経営」とは、人の「心(内面的なエネルギー)」を資本と捉えます。社員の前向きな心理状態を維持・向上させ、自律的に動く組織を作ることが目的だそうです。
要は、同じ人を資源とするにしろ、心的資本というのは、人が育つ環境を整えるだけでなく、心の状態を数値化・可視化し、スタッフ個々が幸福感を感じ、自主的に動くことで売上・利益を最大化しようとするものです。
外食産業というのは、大手ほど、標準化・単純化を計りつつ、また、最近では省人化をどんどん進めることがスタンダードなのですが、トリドールは敢えて真逆の「人」に焦点をあてた戦略に舵を切っている点が注目です。
この戦略に舵をきった理由は、コロナ後の急激な飲食業界の変化(人不足、物価高、人件費の高騰、働き方改革なども含め)が大きな要因だそうです。
特に、これは私自身も感じていますが、飲食店の使い方が、多様化してきて、皆が皆、飲食店の使い方が同じではなくなってきたことが大きく影響しています。つまり、飲食店で食事をすることを楽しむ人もいれば、単なる食事の場として利用するだけという人もいるということです。
だからこそ、トリドールの運営する店では、お客様にいかに楽しんでもらうか、彼らはこれを「感動体験」と読んでいるようですが、この感動体験という価値をどれだけ提供できるかをコロナ以降重要視してきているようです。
今回とった「心的資本経営」というのは、このお客様に感動体験を与えるのは、人、つまり、スタッフでありスタッフの「心」を高めることに取り組まないとお客様に感動体験を提供できないということで、この戦略をとったようです。
なぜ、10店舗未満の企業こそ「心的資本経営」に着目すべきか?
今回、この「心的資本経営」という言葉を聞いた時に、改めて、自分が支援してきた「人を活かす経営」(人的資本経営)と何が違うのか。さらに、飲食業界もトップ企業に位置する会社がこの戦略をとることの意味を考えていました。
実際には、大手企業がこの戦略に取り組むことはむずかしい(ただ、色々なテクノロジーを使って取り組むようで要注目なのですが・・・)と感じているのですが、中小の飲食企業には大手よりも取り組みやすい戦略であり、また、相性のいい戦略であると思います。
というのは、人の「心」の部分に焦点をあてることが、「心的資本経営」の本質だからです。10店舗未満の企業において、これが大手より有利な理由は主に3つあります。
1,経営者の「想い」が直接届く距離にあること
大手では、経営者の考えが現場に届くまでに何層もの役職を介し、どうしても熱量が冷めてしまいます。しかし、10店舗未満であれば、社長が直接スタッフと対話し、その表情を見て「心の状態」を察することができます。システムによる数値化を待つまでもなく、経営者の体温を直接伝えることで、スタッフの安心感や帰属意識を一気に高めることが可能です。
2,「手触り感」のある成功体験を作れること
「自分の工夫でお客様が喜んでくれた」「自分の意見でメニューが変わった」という実感は、心のエネルギー(心的資本)を最大化させます。大手のガチガチなマニュアルの中ではなかなか難しいこうした「自由度」や「手触り感」こそが、中小飲食店の強みです。スタッフ一人ひとりが「自分が店を作っている」という主役意識を持ちやすい環境が、最初から備わっているからです。
3,仕組みの変更が即座にできるスピード感
現場のスタッフが「もっとこうしたい」と前向きになったとき、中小企業ならその日のうちにルールを変えることだってできます。この「自分の声が会社を動かした」という実感が、さらなる自主性を生みます。
繁盛店は、「提供価値」と「体験価値」が明確である!これこそが、今後の競争を勝ち抜くための秘訣である!
現在の飲食業界を見ると、私は、中小飲食店ほど、「自社の立ち位置をしっかりと定めること」が特に重要であると考えています。
近代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーは、2010年頃から「製品中心」から「人間中心」、そして顧客の「体験」にこそ価値があるという理論を提唱しました。私が2015年頃から「体験価値」の重要性を訴え続けてきたのも、まさにこの時代の流れを現場で確信していたからです。
ただ、当時は「メニューを並べるだけでなく、ここでどんな体験ができるかを伝えましょう」と言っても、なかなか理解されませんでした。
しかし、コロナ禍を経て、お客様の「飲食店の使い分け」はさらに残酷なほど明確になりました。日常の食事はコンビニやデリバリーで済ませられるからこそ、わざわざ外食に出向く際には「その店でしか味わえない体験」をよりシビアに求めるようになったのです。
”自社の立ち位置を決める”というのは、自分たちの「提供価値」を明確にするということです。単なる「食の場」となるのか、それとも、「お客様の楽しむ場、楽しめる場」となるのか、などを決めることです。
決して、「食の場」になることが悪いことではありません。大切なのは、自社の立ち位置を決め、その立ち位置にふさわしい戦略を展開することです。
もし、あなたの会社の提供価値を「食を楽しむ空間の提供」とするのであれば、その担い手である、「人」をいかに集められるかが重要視され、そこから、どんな社内整備をすべきかも見えてくるでしょう。
反対に、「食を提供すること」「食事の場の提供」が提供価値だとすれば、競合が同じ飲食業だけでなく、コンビニなども競合に含まれてくると思います。その上で、低価格化や省人化などが課題になってくるでしょう。
私は、ここに現状売上に苦戦している店のヒントがあると考えています。つまり、売上に苦戦しているお店ほど、単なる「食を提供している場」になっている可能性が高いのです。
反対に、繁盛店ほど、「食を楽しむ場、楽しめる場」になっている傾向が強いのです。だからこそ、繁盛店ほど、店に活気があり、店内も季節ごとの装飾があったり、スタッフの表情も豊かで、動きもキビキビ。そして、お客様により近い形でおもてなしをしてくれる。こういったことが普通にできているのが繁盛店なのです。
もちろん、その基盤となる、コンセプトが明確で、商品力が高いということが条件ではありますが、それだけで繁盛店になれないのが今の時代の厳しいところ。そこに、「付加価値」が備わってこそ、お客様から支持をうけ、さらに永く愛される店になると考えています。そして、この「付加価値(体験価値)」を高めるのが「人」に他ならないのです。
もし、あなたの会社の提供価値が「食を楽しむ空間の提供」とするのであれば、今回の「心的資本経営」はとても参考になる戦略ではないでしょうか?そして、この経営手法は、より参考になる経営手法であり、より中小飲食企業に向いている経営ではないでしょうか?
2015年から磨き上げた当社の「人を活かす」具体策
当社は、「心的資本経営」という名を掲げてはいませんでしたが、2015年以降、「人を活かす経営」をコンサルティングの柱として標榜し、スタッフの働く意欲をいかに高めるかに取り組んできました。具体的には、以下のような取り組みの支援をさせていただいております。
・スタッフをいかに仕事を楽しませるかが重要!
そのためにも、達成感、貢献感、自己肯定感をいかに高めるかが大事。 そして、これを実現するためにも、目標設定に力をいれていきましょう!
・成長できること、成長を実感させることが重要!
そのためにも、飲食の仕事をより習得しやすくするために、仕事の言語化をはかり、昔の「目で盗め」ではなく、確実に仕事が上達するよう、環境を整えよう! 特に、手順ではなく、仕事のコツ、ポイントに着目しこれこそ言語化しよう。そして、各自の成長感を感じてもらうために、評価と連動した仕事の仕組み化をしよう。
・自主性を促すために、経営者の考えや判断基準を明確にする
そのために、経営者の考えを方針書にまとめる。そして、様々な仕事の判断基準(いらっしゃいませの声量など)を明確にしよう。また、理念を浸透させるために勉強会や朝礼などに力をいれよう。
もちろんこれら以外にも当社が行っている支援は多岐にわたりますが、基本は「人を活かす」という考え方がすべての根本にあります。
それは、スタッフが仕事を楽しむ風土と環境を作り出すことです。ここで言う「楽しさ」とは、単に楽(らく)をすることではありません。あくまで仕事そのものが楽しい、自分の成長を実感できる、といった意味での楽しさです。この楽しさを味わえる環境こそが人を成長させ、ひいては会社の飛躍的な成長に直結します。
私はこの信念に基づき、戦略策定から環境整備、仕組み作り、そして、現場スタッフへの教育まで、すべてを一気通貫で支援しております。
もし、あなたが、「心的資本経営」に興味をもち、「人を活かす飲食店経営」にご興味をもっていただき、取り組んでみたいと思われた方は、私が徹底的にご支援させていただき、貴社が地域から愛され、誇りにさせる会社、そして、永続的に存続できる会社へ変貌するよう伴走型で徹底的に支援させていただきます。
ぜひ、本年もよろしくお願いいたします。
2026年 元旦
中西フードビジネス研究所 代表 中西 敏弘


