
「教えている」つもりで、実は「伝えている」だけです
アルバイトを「育てる」とは、当たり前ですが「仕事をできるようにさせる」ということです。
しかし、この“当たり前”が現場では意外とできていません。
研修などで「アルバイトを仕事ができるようにするために、どんなことを教えていますか?」と質問すると、多くの人が「最初のトレーニングのこと」を話してくれます。
つまり、ホールでもキッチンでも「作業のやり方」を教えているという答えが返ってくるのです。
ところが、実際にロールプレイングをしてもらうと、ほとんどの人が“手順を伝えているだけ”の状態です。マニュアルがあっても、それを読み上げながら説明しているだけで、本当の意味では「教える」まで到達していません。
それでも多くの人が、「伝えている=教えている」と思い込んでいるのが現実です。
そしてこの誤解こそが、現場の教育を難しくしています。
ミーティングで「アルバイトの成長が遅いです」「社員のスキルが上がりません」と聞くことがありますが、実際には“教える側”に原因があるケースが多いのです。
なぜなら、「教えている」つもりでも、実際は“伝えているだけ”だからです。
「育てた」ではなく「勝手に育った」だけのケースが多いです
「うちのアルバイトは本当に優秀です」と話す店長もいます。
しかし、その多くは「育てた」のではなく「勝手に育った」が正しいのです。
なぜなら、本当の意味で“育てる教育”ができている人は少なく、多くの場合、「作業のやり方」を伝えるだけで終わっているからです。
●1.「教える」の第一歩:目的とゴールを明確に伝える
では、本当の「教えた」「育てた」となるためには、どうすれば良いのでしょうか?
まず、最初のトレーニングの際、接客にしろ調理にしろ、仕事を教える際に、必ず各仕事の「目的」と「ゴール」を確実に伝えることです。
特に、「目的」、つまり「なぜこの仕事をするのか」を伝えることは非常に重要です。目的を伝えず、「作業のやり方」だけを伝えるから、時間が経つにつれて仕事の質が低下してしまうのです。
そして目的と併せて伝えるべきなのが、「ゴール」、つまり「どの状態が正解か」を伝えること。
例えば、料理であれば、どの状態が正解な味や盛り付けなのかを覚え、そこを目指して作らないと質がバラついてしまいます。接客においても、声のトーンや各シーンでの接客を「どんな状態にするか」を具体的に設定しないと、徐々に質が落ちてしまいます。
「いらっしゃいませの声が70dbの声量があって右肩上がりで言う」というように、具体的な状態を設定して伝える。これがまず第一段階です。
●2.「教える」の本質:仕事のコツとフィードバックの反復
ただ作業手順を伝えて、「はい、やってみて!」と言うだけで、アルバイトは仕事が上達するでしょうか?絶対に上手くならないですよね?
仕事の習熟には、必ず仕事の「コツ」というものがあります。このコツを知ること、習得することが重要です。
「教える側」は、この「コツ」をしっかりと伝え、また、アルバイトがどこで苦戦しているのかを的確に指摘し、その仕事のコツを伝えることを繰り返すことで、仕事は上達していくのです。
つまり、「教える」とは、相手をしっかりと見て、どこで苦戦しているのかを見抜くこと。そして、どうすれば良くなるのか(習得できるか)を判断し、それを確実に相手にフィードバックし、また取り組んでもらう。この反復を通じて、スタッフは仕事が「できるようになる」のです。
●3.現場で機能する仕組み:営業中の「コツ・ポイント」の仕組み化が肝
多くの飲食店現場では、接客や調理の「初期教育」のみで指導が完結しているのが実態です。
しかし、営業中に真の戦力となるためには、例えばホールであれば、「ピーク時に、周囲のスタッフとどのように連携を取るべきか」といった、実際の現場で必要な業務の「コツ」や「ポイント」を伝授しなければ、真の業務上達は困難です。キッチンであれば、「多数のオーダーが重なった際の、優先順位と調理順序」を具体的に伝えない限り、戦力として機能しません。
残念ながら、この「営業中の指導」に関しては、指導や伝達ではなく、「指示で動かす」対応に終始し、スタッフが上達するかどうかは多くの場合、「アルバイト個人の能力次第」となっています。
これが、前述の通り「育てた」ということにならないと私が主張する理由です。
この営業中の仕事の「コツ・ポイント」を、いかにアルバイトに教え込むかが、スタッフ指導の最大の核心(肝)です。
これを仕組み化すれば、育成期間の短縮が実現し、「教える側」も指導すべきポイントが明確になるため、フィードバックの質が向上し、指導力が飛躍的に向上します。
●4.マンタラシートを活用した教育の「仕組み化」
この営業中の仕事のコツ・ポイントを仕組み化するために、マンダラシート(目標達成シート)を活用します。
営業中のポジション毎にシートを1枚用意します。真ん中の9つのマスの中心にポジション名を明記し、その周りの8つのマスに、そのポジションに必要な仕事の項目を記入します。
【記入例:案内係】 「入店案内/席効率」「連携」「フォロー」「お客様対応」「指示だし」「当たり前行動」「気遣い・気配り」「スタッフへの心配り」など。
次に、各仕事の項目を中心に据え、その周りに、具体的なコツ・ポイントを明記していきます。
【記入例:指示だし】
・相手に伝わる声量を出す
・優先順位を考える
・相手の名前を呼ぶ
・声が他の人とかぶらないようにする
・相手の作業が終わってから伝える
・相手の手が空くかどうか確認する
・指示内容ができる人を選ぶ
・ゆっくりと分かりやすく言う
こうして完成したものが、下記の写真のようになります。

このシートがあれば、「教わる側」も「教える側」も何を学び、何を教えるべきかが明確になります。また、「教わる側」は目標設定がしやすくなるため、成長スピードの加速に繋がります。
「伝える」から「教える」へ
“伝える”だけでは、人は育ちません。
“教える”とは、相手を理解し、成長を導くことです。
この違いを理解し、仕組み化することで、誰でも人を育てられるようになります。
あなたの会社でも、こんな仕組みをつくってみませんか?
きっと、現場の雰囲気も、スタッフの表情も大きく変わります。

