数年前の話ですが、あるご支援先の勉強会で、とても興味深い報告がありました。これがその後の現場改善に役立ったので、シェアしたいと思います。
 

 

あるご支援先の店長からの報告

「コロナ対策で換気を促すため、入り口の扉を開けたまま営業していたのですが、これが功を奏して、入口への意識が自然と高まり、お客様の入店に以前より気づけるようになりました。」

これまでは、扉に鈴をつけて、扉を開けると音が鳴り、お客様の入店に気づくような仕組みにしていました。(多くのお店でも行われている方法だと思います)

そして、この店舗ではここ半年ほど、“いつ・どんな時でも100%お客様の入店に気づき、必ず近づいて席までご案内する” という方針をさらに強化して取り組んできました。

その一環として、入口付近にスタッフを確実に配置するポジション制を導入していたのですが、長年のクセはなかなか抜けず、どうしても案内係が店奥に移動してしまい、出迎えや案内ができない場面が増えていました。

ところが今回のように「鈴」の音が鳴らない(扉を開けたまま営業していたため)状況になると、スタッフは単純に“意識”を持つだけで、以前よりもお客様の入店に気づけるようになったのです。私はこの報告を聞いて、なかなか面白い気づきだなと感じました。

本来「鈴」は、あくまで補助的なもの──入店に気づきやすくするためのサポートにすぎなかったのに、それに頼りすぎるあまり、逆に自分たちの本来の仕事が弱まってしまっていたのだと思います

  

 

別のご支援先の店舗での気づき

同じ時期に、別のご支援先を視察した際のことです。
その店舗には「呼び鈴」が設置されており、スタッフは皆、その音が鳴ったらお客様のところに伺う──という行動が当たり前になっていました。

忙しい店なのでスタッフは一生懸命なのですが、私はその姿を見て「お客様にコントロールされている」と感じました。

例えば、下げものをしようとしたスタッフが呼び鈴に呼ばれて作業を中断。さらに別のお客様に呼ばれてまた動く──結果、オペレーションが後手に回り、効率も落ちていました

本来なら自分で優先順位を判断して動けるはずなのに、呼び鈴に反応するばかりで、スタッフは“自分の意志で動けていない”状態に陥っていたのです。

もし、注文を「呼ばれてから伺う」のではなく、“スタッフ側から先に伺う”ことを徹底していれば、状況は全く違っていたはずです。お客様の様子を観察し、こちらから先手、先手で声をかけていれば、いい意味で「お客様をコントロールする」ことができ、オペレーションももっと効率的に回せたでしょう。

しかし実際には、「呼び鈴」があることで、それに頼るのが当たり前となり、かえって自分たちの段取りを乱し、効率を悪くしている状態になっていたのです。

そこで「呼び鈴はあくまで補助的な存在」と位置づけ直し、スタッフが主体的にお客様へ声をかけるスタイルへ切り替えてもらいました。

結果、すぐに上手くいったわけではありません。
長年“呼ばれてから動く”ことに慣れていたため、最初は動きにぎこちなさもありました。
しかし数か月後には、スタッフから先に声をかける場面が自然に増えていき、呼び鈴の鳴る回数も減っていきました。

「呼び鈴が鳴ってから」ではなく「お客様を見て先に声をかける」習慣が少しずつ根づいたことで、オペレーションの効率も上がり、サービスの質も向上していったのです。
また、自分の意志で動けるシーンも増え、結果的に動く量も大幅に削減され、スタッフ全体の疲労軽減にもつながったのです。

 

 

補助が主役になると何が起こるか?

この2つの事例から分かるのは、本来「補助」であるはずの仕組みや道具が、いつの間にか「主役」になってしまうと、人の意識や行動を弱め、かえって現場の質や効率を下げてしまうということです。

例えば売上管理も同じです。
かつては日報に客単価や原価率を自分で計算して記入していたため、自然と数字感覚が培われていました。しかし今は、レジやPCが自動で計算してくれるため便利になりましたが、その結果、人の数字に対するスキルや知識が少しずつ失われつつあります

「効率的になる」「便利になる」ことは、もちろんとても良いことです。
ただ、その裏側で“人のスキルや意識が下がってしまう”というのが、現在の大きな課題なのかもしれません。

もし、まったく「人」に頼らない経営を目指すのであれば、気にする必要はないでしょう。
しかし「人」を中心とした経営を行っている会社であれば、デジタル化や機械化を進めるにしても、その取り入れ方・使い方には十分気を付ける必要があると私は感じています。

 

 

最後に

「鈴」や「呼び鈴」のように、本来は補助だったものが主役になっていないか?
便利さに頼り切ることで、人の意識やスキルを下げていないか?

ぜひ、あなたのお店でも一度、検証してみてください。