他がやっているから「やる」で、本当に自社を成長させられるのか?

 
15年ほど前のことです。私のセミナーで講義をしているときに、ある参加者の方からこんな質問を受けたことがあります。

「これって、他の会社の方もやっているのですか?」

どんな内容であったかは忘れましたが、その質問を受けたときの違和感は今でも鮮明に覚えています。きっとその質問者の方には、私が紹介したことをあまり理解できなかったようで、内容の良し悪しよりも「他がやっているなら安心だ」ということを基準にしていることに非常に疑問をもったことをよく覚えています。

これまでコンサルティングをやっている中で、経営者の方と対話をしているときに「これはどうして導入したんですか?」「これはなんでこうなっているんですか?」と質問をすると、「他がやっているから……」「みんなやってるでしょ?」と、そのモノの内容だったり、自社に合うのかどうかを全く考えず、ただマネをしているだけの経営者が結構いるなと感じています。

他人や他社の”マネ”をすることは決して悪いことではないのですが、「マネをすること=他と一緒(同質化)」というリスクを忘れてはなりません。その考え方や主旨を理解せず、単に”ウワベ”だけを真似ていては、ただ同質化するだけで、かえって自社の良さをなくすことになります。

 

 

条件の「ウワベ」だけのマネが、採用を弱くする

 
今、飲食業界の大きな課題は「人材不足」です。この人不足をどう乗り越えていくかが、今後の会社を成長させるための大きな鍵となります。しかし、この採用戦略すらも「他と同じ」になっていないか、見直しが必要ではないでしょうか。

例えば、求人募集です。皆、同じような内容になっていませんか?

「当社はブラックではありません!ホワイト企業です!」
「週休2日、福利厚生充実、給与は30万円です」

採用ページを見ると、どこもかしこもこのように同じようなことが書かれています。もし同じような内容なら、求職者がより安定性の高い大手企業へと流れてしまうのは当然のことです。

コロナ禍以降、飲食店の倒産件数は増え続けており、私の肌感覚では社員さんの独立希望者が大幅に減っていると感じています。飲食経営の厳しさを痛感しているからこそ、転職に際しても「働きやすさ」はもちろん、「安定性」も大きな要素になっているのでしょう。

ですが、仮に条件面だけで採用できたとしても、会社のあり方や価値観に合致していないと、すぐに離職してしまいます。なぜなら、そういった人は、結局は「条件」だけを見て入社してくるわけですから、店が忙しかったり嫌なことがあれば、また「条件」の良いところを探して転職してしまうからです。

今後、中小飲食企業が採用を伸ばすには、単に給与を高くするだけでなく、「独自性」「その会社らしさ」を打ち出し、「どんな会社を目指しているのか」「どういう価値観の人を増やそうとしているのか」という、会社のあり方を明確に打ち出すことが求められていると、私は考えています。

 

 

「独自性」を発揮するために深めるべき視点

 
採用面で独自性を発揮するためには、まず自社の根幹を深掘りする必要があります。具体的には、以下の4つの点を整理してみてください。

 

・「創業の原点」を掘り起こす

なぜ今の店を始めたのか、どんな想いを届けたかったのか。その原体験こそが、大手には決して真似できない最大の独自性になります。
 

・スタッフにどう成長してほしいか?

自社で働くことで、将来どんな人間になってほしいのか。理想の成長イメージを明確にします。
 

・「現場のスタッフの声」に耳を傾ける

実際に働いている人は、何に魅力を感じ、どんな瞬間に成長を実感しているのか。生の声こそが、最も説得力のある独自性になります。
 

・地域における存在意義を考える

店が地域に根付いたとき、住民の方々からどんな風に思われたいか。

 

この4つの質問を深めることで、自分がなぜ「飲食業」をやっているのかも明確になるでしょう。それこそが経営者の思いであり、価値観であり、これに共感してくれる人を採用できれば、離職率も低下させることができるはずです。

 

 

自社の「売り(方向性)」をどのように見極めるのか?

 
「独自性を出そう」と思っても、外にある流行りの言葉を引っ張ってきたのでは、また「同質化」の罠にハマります。自社の内側にある「事実」から導き出すことが不可欠です。具体的には、以下の3つのステップで考えてみてください。

 

1,「4つの視点」から共通するキーワードを抽出する

先ほど挙げた4つの回答を並べてみてください。例えば、経営者の原点が「人が喜ぶ姿が見たい」であり、現場のスタッフも「お客様との深い繋がり」に魅力を感じている。さらに地域からも「あそこに行けば元気になれる」と思われているなら、その会社の軸は、「人間関係」や「地域コミュニティ」にあります。逆に、原点が「料理の技術追求」で、スタッフも「腕を磨けるから働いている」と言うなら、軸は迷わず「圧倒的な成長とチャンス」に絞るべきです。

 

2,「これだけは絶対に許せないこと」を裏返してみる

もし「自社の強み」がピンとこない場合は、逆に「どんな会社には絶対にしたくないか」という強い拒絶反応から考えてみてください。

「言われたことだけをこなす、ロボットのような職場は嫌だ」
 →「個人の主体性や自己実現」が売りになります。

「スタッフ同士がギスギスして、助け合わないのは絶対に嫌だ」
 →「強固なチーム力や、安心できる居場所」が売りになります。

経営者の「嫌い・許せない」という強い感情の裏側にこそ、独自の「売り」が隠れています


3,経営者自身が「無理なくワクワクし続けられるもの」を選ぶ

例えば、本当は「静かに黙々と料理を作りたい」と思っている経営者が、無理に「活気ある地域コミュニティの起点」を売りに掲げても、どこかで必ず無理が生じます。経営者自身が、一番自然体で、熱を持って語れるもの。それこそが一番「嘘のない独自性」になるのです。

このようにして、自分自身の「譲れない想い」と「現場の実態」が重なる一点を見つけ出す。それが、自社が掲げるべき「旗印」となります。その答えが、例えば「安定よりも成長」ならその旗を掲げればいいし、「地域で一番愛される居場所」ならその旗を掲げればいい。大切なのは、経営者自身が『これこそが自社の進む道だ』と腹の底から納得していることです。

 

 

自社の「売り」を実現するための仕組みを整えることで、求職者の「こころ」を動かす!

 
そして、自社の「売り」をどこに定めるかが決まったら、次はそれを求職者が目に見える「仕組み」へと落とし込んでいく必要があります。

例えば、売りを「成長とチャンス」という軸に定めると決めたなら、単に言葉で謳うだけでなく、それを裏付けるための徹底した仕組み作りが必要になります。

・成長を実感できる仕組みがある(フィードバックが定期的に行われる)
・相談しやすい人(メンター)がいる(メンター制度の導入)
・確実に成長できるプログラムがある(確実にスキルが身につく教育制度)
・すぐに出世できる(出店計画があり、すぐにチャンスが掴める)
・自分の目指す姿を明確化しやすい(キャリアプランが明確である)
・自分のスキルを高められる勉強会や研修制度がある
・どんな努力をすればいいかが明確である(キャリアに沿った評価制度)

このように、まず自社の「売り」を明確にし、それに合わせた制度を一つずつ構築していく。この一貫したプロセスこそが、他社には真似できない本物の「独自性」へと繋がるのです。

これは「成長とチャンス」に限った話ではありません。どの方向性を選ぶにせよ、経営者が自社のあり方を明確に打ち出し、それを少しずつ仕組みとして整えていくのです。

そして、こうした姿勢が求職者に見えることで、「なんか楽しそう」「ここだったら自分のやりたいことが実現できそう」と、相手の”こころ”(感情面)を動かすことができ、自然と採用希望者が増えるようになるのではないでしょうか。

 

 

人を「駒」と見るか、「パートナー」と見るか?

 
最後に、離職率が高く定着しない会社には、ある決定的な特徴があります。それは、経営者自身が、「社員のことを本気で考えていない」ということです。会社の成長や売上には執着しますが、結局のところ社員を「駒」としか見ていないのです。

そんな経営者の本音は、働くスタッフに見透かされています。売上だけを追う経営者ほど、人を数として捉え、条件面ばかりを整える傾向があります。

そして面白いのは、条件面で採用した人ほど不平不満を言う確率が高く、また離職する確率も高いのです。つまり、経営者自身が離職率を高めるようにしてしまっているのです。

もちろん、会社が成長し売上が上がらなければ、働く人の環境を整備することはできません。しかし、人がいなければ売上を作れないこともまた事実です。

安定的な成長を望むのであれば、まずは「働く人」がイキイキ、ワクワク働ける環境を、売上対策とセットで作っていくことが重要です。だからこそ、今、自社の価値観を再整備することが、何よりも求められているのではないでしょうか?