私が提唱している「人を活かす飲食店経営」とは、単なる人材育成や表面的な優しさではなく、企業の永続的な成長と多店舗展開を確実に実現するための本質的な経営戦略のことを意味しています。

これは、目の前の利益追求に囚われるのではなく、「人の成長」を重要視し、その成長を持続的な成果と結びつける経営手法を指します。

この経営は、以下の3つの柱を追求することで成り立っています。

   

「人を活かす飲食店経営」の3つの柱

  

1,理念経営:存在意義を明確にし、社会的な使命を重視する

「人を活かす経営」の揺るがない土台は、「理念」です。理念なき経営は、いくら数字を追いかけても長くは続きません。また、この「理念」が人を活かす、個を活かすための中心軸となります。

・存在意義の確立: 自社がなぜ存在するのか、利益の追求だけでなく、地域や社会に対してどのような役割(社会的使命)を果たすのかを明確にします。

・判断の軸の共有: 理念を追求し、全スタッフと深く共有することで、日々の経営判断や現場での行動に一貫性が生まれ、組織全体のベクトルが一つになります。

・人の成長と理念の融合: 理念は人を育てること、人を輝かせることの根幹となります。理念を追求する、徹底する過程が、そのまま人の成長と組織の一体感を生み出す推進力となるのです。

  

2,人の成長を主眼とした経営:「人」を会社の宝として輝かせる

「人を活かす」とは、すなわち「人を成長させる」ことです。そして、人こそが会社の最も大切な財産(宝物)であり、この考え方を経営の中心に据えることが出発点となります。

・イキイキとワクワク働ける環境づくり: スタッフ一人ひとりの個性や強みを活かし、失敗を恐れずに挑戦できる環境を整えることが、人の成長を促します。人は単なる「動かす駒」ではなく、未来を託せるパートナーとして扱われる必要があります。

・成長のための仕組み: 個人の努力任せにするのではなく、知識やスキルを学べる勉強会や、成長しやすい仕組みづくり、評価制度の構築などを通じて、人が育つ環境を整備します。これにより、スタッフはやる気次第でいくらでも成長できる状態が生まれます。
つまり、「人を活かす」といっても、「成長を人、個人に任せる、委ねる」というのではなく、会社が環境と仕組みを整え、意図的に成長させるということです。

・成長が成果を生む: 人が成長し、現場の力が強化され、主体的な行動が増えることで、顧客満足度の向上やサービス品質の安定が実現します。売上や利益は、この「人の成長」と「現場の変化」のあとから必ずついてくる結果なのです。

 

3,永続経営:未来を見据え、持続的な成長を目指す

「人を活かす経営」は、今だけの成功や短期的な利益を追うのではなく、永続的な会社の発展を目的としています。

・未来への責任: 経営者の責務は、一度始めた事業を存続・発展させ、スタッフが安心して未来を託せる環境を提供し続けることです。短期的な数字に一喜一憂し、小手先の販促に依存する経営では、事業は長く続きません。

・長期的な資産: 「人を育てる」という取り組みは、短期では数字に表れにくいかもしれませんが、これこそが、会社の力として積み重なる長期的な資産です。この資産を築くことで、外部環境の変化にも揺るがない、持続的に成長する力を手に入れることができます。

・多店舗展開の成功: 地域に根ざし、一店舗一店舗を丁寧に育てていく多店舗展開は、人の成長が前提となるため、スピードはやや劣ります。しかし、スタッフがイキイキと働き、地域に愛される繁盛店が増えるという形で、安定した永続的な多店舗展開に繋がります。

この3つの経営を追求する会社は、結果として「店舗数をただ増やすこと」を目的としません。 なぜなら、理念を共有し、人の成長を最優先する取り組みこそが、地域に必要とされ、スタッフが誇りを持てる強い店を育てる唯一の道だと知っているからです。

 

成果の核心:地域に愛され、スタッフが誇りを持てる店が育つ

私の経験上、「人を活かす経営」で多店舗化した会社には、共通する特徴があります。 それは、数だけを追うのではなく、一つひとつの店が「強い店」として育っていることです。

・スタッフが前向きに成長している
・雰囲気が良く、お客様にも自然と伝わる
・店に“その会社らしさ”があり、地域で愛されている

店舗数をただ増やすのではなく、一つひとつの店を“育てる”。この地道な積み重ねこそが、多店舗化をしても崩れない強靭な組織をつくります。なぜなら、「強い店」は“人”からしか生まれないからです。

  

  

 

「人を活かす経営」がもたらす具体的メリット

1,現場の活性化と定着率の向上

自分の個性を活かせる環境は、スタッフの仕事へのモチベーションと生産性を高めます。また、「大切にされている」と感じることで会社への愛着が深まり、離職率の低下に繋がります。経験豊富なスタッフが長く定着することで、チーム全体のサービス水準が安定し、向上します。

 

2,顧客満足度とリピーターの確実な獲得

モチベーションの高いスタッフは、マニュアルを超えた主体的な行動や温かみのあるサービスを提供やレベルの高い商品により、店の品質が高いところで維持できます。これにより、お客様の満足度が必然的に高まり、「また来たい」というリピーターや、口コミによる新規顧客の獲得に繋がります。

 

3,現場の生産性向上と高効率なオペレーションの実現

人を活かした組織は、教育と仕組みによってスタッフが課題解決力を持ち、現場の仕事の効率を劇的に高めます。この高まった現場の生産性により、少ないリソースで安定した高い成果が出せるようになり、多店舗展開に必須の高効率なオペレーションが実現します。この強い現場力こそが、永続的な成長を支える強固な経営体質を築きます。

 

4,採用活動の優位性確立と質の高い人財の確保

「人を大切にする会社」という評判は、スタッフがイキイキと働いている姿を通じて社外に伝わり、最高の採用広告となります。これにより、深刻な人手不足の時代においても、会社の価値観に共感する意欲の高い人財が集まりやすくなります。働く側から選ばれる会社となることで、採用コストを抑えつつ、他社にはない人財獲得における確実な競争優位性を確立します。

 

 

 

「人を活かす飲食店経営」にまつわる2つの誤解

「人を活かす経営は、時間がかかるだけで、結局は売上が上がらない」、また、「テクノロジーを拒否する、時代遅れのアナログ経営だ」と誤解を抱かれがちですが、それは本質から外れています。

 

誤解1:人を活かす経営=売上が上がらない

確かに、取り組みを始めてすぐに数字が劇的に変わることはありません。しかし、これは「売上が上がらない」ということではありません。この取り組みは、「教育」「仕組みづくり」「店舗改善」という基盤整備に時間がかかるため、短期的に劇的な数字の変化は起こりにくいからです。

・正しい取り組みが成果に繋がる: 経営者が本気になって学びや仕組みづくりに取り組み、社員が皆で同じ方向を向いて努力を続ければ、少なくとも6か月ほどで必ず結果に繋がります

・成功体験の積み重ね: 教育によりスタッフがスキルを身につけ、売上アップに繋がる成果を出すことで、「やればできる」という成功体験が生まれ、さらなる成長意欲と自信に繋がります。売上という目に見える成果と、人の成長という目に見えにくい成果、その両方が着実に会社の力となるのです。

 

誤解2:人を活かす経営=テクノロジーを拒否する時代遅れの経営

「人を活かす」ことは、「人にしかできない価値創造」に集中するための手段です。むしろ、人にしかできないことに集中するため、テクノロジーは積極的に活用します。

・活用すべき領域: 店舗の清掃や仕込み作業など、単純作業や効率化が可能な営業外の業務は、テクノロジーや設備を積極的に導入し、作業や時間を短縮します。特に、売上管理、シフト管理といった営業時間外のバックオフィス業務にはテクノロジーを徹底活用し、時間短縮し、スタッフ働きやすい環境をつくることが、人を活かす経営には欠かせません。

・人にしかできない領域: しかし、お客様との温かい接客や、五感を活かした調理など、「人と人との繋がり」を生む創造的な業務は、人が行うことで、他店との差別化に繋がるとともに、スタッフがお客様と接することによりモチベーションアップにも繋がります。

テクノロジーは、人がより創造的で、価値のある仕事に集中するための「道具」であり、これを積極的に活用することで、スタッフは「人が活きる」環境でイキイキと働くことを可能にします。

そして、この「人」と「道具」を正しく活かし、短期的な成果に惑わされない姿勢こそが、事業の成功を決定づけます。

 

 

  

短期ではなく“未来”を見る経営

人を活かす経営は、今日・明日の売上のための手法ではなく、10年先、20年先まで続く会社をつくるための方法です。

・スタッフが誇りを持って働き、成長し続ける会社。
・お客様に愛され、地域の中で存在意義を果たし続ける会社。
・そして、次の世代にまっすぐに受け渡せる会社

そのためには、教育や仕組みづくりに時間をかける必要がある。
ただし、それらは“売上を生むために必要な投資”であり、決して遠回りではありません。

「人を活かす飲食店経営」とは、“人の成長”を起点に、理念を軸にし、仕組みと環境を整え、永続的な事業成長を生み出す経営です。そしてこの経営は、単に「良い会社になるため」のものではなく、売上・利益という明確な成果を最も確実に生み出す経営戦略なのです。

そのためにも、短期的な数字に一喜一憂せず、中期的な視点で腰を据えて取り組みを継続する覚悟こそが、この経営手法で成長を実現する唯一の鍵となります。

会社を強くするのは“人”。 多店舗化を成功させるのも“人”。 そして、人が育つ会社こそが、未来に続く会社である。

「人を活かす飲食店経営」とは、人を大切にするという理想論ではなく、「人を成長させることで、企業の永続的な発展と多店舗展開を成し遂げる戦略」であり、これからの時代、持続的に成長し続けるための最も合理的で確実な道なのです。