働く目的を「お金」ではなく「個の生き方(成長)」に

「お金が人のモチベーションを向上させる???」

私も数年前までは、これこそが人が頑張れる一番の源泉だと信じていました。だからコンサルティングでも、「頑張れば給与が上がる」仕組みをつくっていたのです。

けれど現実はそう単純ではありませんでした。
評価は結局、人がするもの。売上実績など成果によって評価が決まる制度では、評価が上がらなければ給与も上がらないという現実があります。

しかもその仕組みは「自分のこと」だけを考える人を増やしてしまうなど、かえって弊害を生むこともあります。つまり、うまく機能させるのは想像以上に難しかったのです。


そんなとき、あるご支援先で不思議な光景に出会いました。

スタッフ全員が驚くほどモチベーション高く、仕事に対する意識もとても高い。接客の姿勢や日常の立ち居振る舞いからも、「この仕事を誇りにしているんだな」という雰囲気が伝わってきました。

「きっと特別な給与体系があるに違いない」──そう思い社長に尋ねました。
けれど返ってきたのは、「いや、特に目新しい仕組みはありませんよ」という答えでした。

僕はますます疑問を抱きました。
給与が特別高いわけでもないのに、どうして彼らはこんなに頑張れるのか?

教育的な部分を中心に支援を続けていくうちに、ようやく、彼らが持つモチベーションの源泉が見えてきたのです。

  

 

視点を「会社」ではなく「個」に向ける風土

その会社では、働く目的を「お金」ではなく、個人個人の「人生(生き方)」にフォーカスさせていたのです。

「自分がどうなりたいのか」
「人生を楽しむために、何を頑張るのか」
「自分を高めるために、どのように学ぶのか」

会社や店のために頑張ることももちろん大切。けれどそれ以上に、「自分を高めるためにどうすべきか」という問いかけが日常の中で当たり前のように交わされていたのです。

多くの会社・店では、「何をやっているんだ。こんなことだから売上が上がらないんだ」と、会社や店に視点が向きがちです。
しかしこの会社では、「それで君はいいのか?」と問いかけ、視点を常に個人へと向けていたのです。その問いかけは、単なる叱責ではなく「君自身の成長をどう考えるのか」というメッセージでもあったのです。

だからこそ、スタッフは「上司は自分のことを真剣に考えてくれている」と感じることができ、また、自分の存在を認めてもらえているという安心感が生まれ、その実感がさらにモチベーションを押し上げていったのです。

「個が頑張り、その集合体として会社が存在する」というのが、この組織のベースにある考え方にあり、だからこそ、「皆が共に自分の人生を楽しむために頑張ろう」という風土が醸成されていったのだろうとすごく納得感があったことを覚えています。

 

 

個を高める仕組みがモチベーションをつくる

この考え方は、仕組みにも表れていました。会社には数多くの勉強会があり、ほとんどのスタッフが毎週2~3回参加していたのです。

営業や仕込みも含めれば、毎日はかなりハード。それでもみんながモチベーション高く働き、学びを楽しんでいる姿が強く印象に残りました。

もちろん、このペースについていけず入社後すぐに辞めてしまう人もいましたが、けれど残った人たちは「自分を高めるために頑張る」という目的を持っていたからこそ、厳しい環境さえ前向きに乗り越えていたのだろうと思います。

 

 

「お金」でなく「生き方」にフォーカスする意味

多くの経営者は「スタッフに頑張ってほしい」「少しでもいい思いをしてほしい」と願っていることだと思います。その手段として「お金」を使うことが多いのですが、実際に成果を残せている会社は意外と少ないのではないでしょうか?

なぜなら、お金が「働く目的」になってしまうと、モチベーションを高いところで維持し続けることが難しいからです。

一方で、働く目的を「個人の生き方」にフォーカスさせると、「自分の能力を高めるために頑張ろう」という意識が生まれます。そうなれば、どんな状況でもモチベーションを保ちやすくなるのです。

きっと多くの人が、「視点を個人に向けると、みんな自己中心的になってしまうのでは?」と心配するでしょう。ですが僕が見たこの会社では、むしろ逆でした。
個を大切にする文化が、結果として会社全体を強くしていたのです。

だからこそ、給与制度や評価制度で悩み続けるよりも、「個」や「個の生き方」に視点を移すこと。それができれば、「給与を上げないとモチベーションが上がらない」という悩みは、きっと自然と消えていくのではないでしょうか。